年が明けたかと思うと、もう節分である。 年々月日の経つのが、早く感じるのは、自分だけではないはずだ...。 「やれ師走だ、正月だ」 そのような、あわただしさも、年々薄れてきた。 商売を長年やって来たから、余計に身にしみて感じる。 困った事ではあるが....。 そんな事を、年末の店でひとり 『走馬灯』 状態で考えてると、店先に車が止まった。 かと思うと、すぐにドアの閉まる音。 初老の、ちょっとコワモテのオヤジさんが飛び込んできた。 そして、いきなり 「迷彩ズボンくれ!迷彩ズボン!」 「どんな柄の迷彩がいいですか?」 たずねた。 「カッコイイのくれよ。アンちゃんに任せるよ。オっ、それに合う上着もな!」 なんだか、懐かしさを感じさせる買い方である。 俺が家業を手伝いだした頃、こんな買い方をするお客さんが結構いた。 特に年末に、飛び込みで入ってくるお客に多かった。 迷彩柄も決まり、早速、丈直しにミシンをかけ始めると 「アンちゃん、どこで習った?うめ~な」 『.....こう見えても何十年もやってるんですけど...』 口から出かかった。 「ちょっとやらしてみろ。俺、うめ~ぞ」 「大丈夫ッすか?工業用ミシンだから速いっすよ」 「いいから替わってみな」 「失敗しても、知らないですよ....」 渋々替わった。 初めは縫いシロをはずしてたが、だんだん調子付いてきた。 「見ろよ、ウメ~だろ。 スリッパ縫いなんか、得意中の得意だぞ!」 得意満面のオヤジさんの手元を見ると、小指が半分つめらていた。 おのずと、何処でミシン修行したか想像できた。 と、同時に 『あ!デジャブだ!』 以前に、全く同じやり取りをした記憶がある。 それもかなり昔に...。 俺がオヤジの手伝いをしてた頃だ。 ウチのオヤジは 「ドスの利いたの寅さん」って感じで、その筋の方々に「オヤジさん!オヤジさん!」って結構慕われていたようだ。 確かにその頃だ。 段々記憶がよみがえって来た。 俺が仕上げをやっていると 「中に着るシャツもな!靴もだ」 俺なりに、コーディネイトをした。 「正札、全部はずしてくれ、着てっちゃうからよ」 これまたあの時と同じだ! 『ひょっとするとあの時の....。間違いない』 「いくらになる?」 着替え終わって、支払いを済ませると 「ありがとよ、またな!」 せわしなく車に乗り込んでいった。 後姿を見ると 『チョット派手なの薦めちゃったかな~。ま、歳を重ねるほど若返った方がいいし、結構似合ってたし....』 そう思いながら、 『やはり何十年前の、あの時のお客さんだ』 と、確信した。 昔を思い出して立ち寄ってくれたのだろうか。 「あんちゃん、やけに派手な物、薦めやがったな~。ま、若返ったつもりで着てやっか!あの時の若造も、代わり映えしね~店で、元気にやってるようだし、俺も元気なうちに、また来てやっか」 車の中で、あのオヤジさんが、そう呟いているような気がしてならない。 商売をやっていて、そんな何十年ぶりの再会、嬉しいものである。 面と向かっては言わなかったが...。 あの時代の年末に、いっとき戻ったような出来事であった。
大好きな曲がある。『Bartenders Blues』 フォークシンガーのジェームステイラーやカントリー界の大御所、ジョージジョーンズで有名なナンバーだ。 今回はカントリー系ブルースギタリストのRed Volkaert レッド ボルカートが味わい深く唄っている。 美人スティールギター プレーヤーのCindy Cashdollar シンディー キャスドラーの泣きのスティールギターもいい。 安酒場のバーテンダー主人の哀歌と、いったところか...。 四角に囲われたカウンターの中から、いつものように客の煙草に火をつけ、ジョークに笑い、酔いつぶれた客、悲しい横顔、人生の岐路に立った人の背中、多くを見てきた。 この俺だって同じ様な人生を歩んできた。 こんな店、閉めてしまって、街を立ち去ろうと思えばいつだってできる。 けれど、ここにいる人々、そしてこの四角く囲まれたバーカウンターが俺の人生を見守ってくれている気がする。 どうか酒場の天使よ、こんな俺をいつまでも護っていてくれ.....。
http://jp.youtube.com/watch?v=VNa7SpfDl-s&feature=related
店長日記 2009
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