「まだ、開店じゃないですよね…?」 シャッターを開けたばかり、カップルが店先で聞いてきた。 毎朝10時の開店だが、この時間はたいてい開け始めている最中だ。 「…いいよ。どうぞ」 広い店でもないし、開けながら接客もできる。
陳列前の商品をあれこれ見て、Tシャツをおそろいで2枚買ってくれた。 帰りがけに無造作に置かれている箱を見て 「この箱、売り物ですか? いいな、いいな…」 女性が言う。 「こんなの売り物じゃないよ~。 外の商品の下に置いている台替わりの箱だよ」 「売ってくれる~?」 「売り物じゃないって…」 「…」 「…しょうがない、どうせ汚れているから持って行きなよ」 「ワ~イ、うれしい!」 いったい何に使うんだろう?
その箱は米軍の行動食、非常食 ”MRE” が入っていた空箱だ。 この度の震災で、被災地に米軍が救援物資と共に、この箱をヘリコプターから降ろしている映像をニュースで幾度と見た。
数年前には店にも結構、在庫があり、箱売り、ばら売りと、お客さんにも楽しんで買っていただいた。 メニューも豊富で、昔の物は洋食中心だったが、近年は中華、イタリアン・パスタ、テリヤキソース・チキン、さらに宗教上のメニューなど、いろいろと味わえる。 もちろん、どれにもコーヒー、ソフトドリンク付きだ。 ケーキ、フルーツもあった。 救援物資にもなり、戦場の行動食でもあるから、ヘリコプターから投げ降ろされることもあるだろう。 だから非常に丈夫なダンボール箱である。 結果、うちの店では商品の台として役立っているわけだ。
そんな朝の出来事があった日の午後。 仕事車を店前に止めて、入ってきた男性客がいた。
しばらく商品を物色した後、 「ウワー、スゴ! すみません、この箱、売ってくれます?」 『…また朝の再現か…?』 「これ、かなり古いですよね~。C-レーションの頃ですよね」 彼が言う通り、その箱は朝の箱と同じ米軍食料用の空き箱だが、時代はベトナム戦期の初期の物。 C-レーションと呼ばれ、今のようにレトルト、フリーズドライの物ではなく缶詰の食料が入っていた頃の物だ。 今の物より薄い箱だ。
「よく知っているね~、でも中身は空だよ」 「売ってくれます…」 「売り物じゃないよ、商品の台に重宝しているんだから」 「で、いくらで売ってくれます?」 「空箱なんか売ってないって!」 「…」 未だ欲しそうにしている。 「じゃあ、逆に聞くけど幾らだったら買う?」 聞いてみた。 「…5,000円でどうですか?」 「5,000円 !! ほんとかよ!」 こんな古ぼけた箱に5,000円の値が付いた。 「ーーーいいよ、いいよ、1,000円で」 「ほんとですか? ありがとうございます」 売り上げの少ない日に5,000円はありがたいが、台替わりの箱にこの値段では気が引ける。 1,000円だったら本人もマニアックな物が格安?で手に入り、大喜び。 ま、うちも商品の売り上げとして計上できたわけで、これでよかったのだろう…。 変に納得してしまった。 マニアの人には宝物って訳か…。 朝のお客さん、いくらで買うつもりだったのだろうか。 こちらは外で使っていた汚れた箱。 結局ただで差し上げたけれど…。
同じ日に、箱にまつわる2件のお客さん。 変わった箱の日だった。
「2,500円位でもよかったか…?」 後になってセコイ後悔が出た。 でもどう見ても、1,000円位がいいとこだよな~。 また変な物を引っ張り出しておくか…。 でも、もう少しまともな物も買って行ってくれよ~。
2012-06-27 09:10:00
店長日記 2011
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